どこからだろう・・?
リョウはキョロキョロと辺りを見回す。
周りは人が多くなかなか見つけられない・・。
「ここだよ。」
ど、どこ・・?
「横! 君の横だよ!」
・・・横?
自分の右側を見たリョウの目に入ったのはカフェのベンチに座る一人の青年だった。
銀色の短い髪で黄色の眼鏡をしている。
黒い上着とズボンを着ていて胸元には銀色の十字架が光っていた。
神父・・・という訳でもなさそうだが・・。
というかこんな神父がいたら嫌だ。
彼は右斜め45度のポーズで微笑んでいる。ナルシストポーズだ・・・。
・・・ついでにいうと手も振っている。
「やぁ!」
ひたすら爽やかな笑顔。
「あ・・・どうも。」
彼らの間に一陣の風が吹いた。
もう、日は高い・・・。
カフェのテラスにリョウと青年は座っていた。
ちなみに対面式だ・・。
目の前にはサンドウィッチやらスープやらが広がっている。
空想物じゃない、現実ものだ。
リョウのお腹が切なく鳴く。
早く口に入れろと訴えているかのように。
「さぁさ。 たんと召し上がれ!」
青年はにこにこと笑いリョウに食事を勧める。
また、リョウのお腹が切ない音で鳴いた・・・。
げ、限界値だ。
「い、いただきます・・・。」
食事ってこんなに美味しいものだっけ?
こんなに有難いものだっけ?
無我夢中で食べるリョウを青年は笑顔で見守っている。
彼はリョウに遠慮しているのかお腹が空いていないのか、食事に手を付けてはいない。
「あ、あの・・ありがとうございます。」
「いや、いいんだよ。何だかフラフラしながら歩いてたからさぁ。もしかして空腹?って思って。」
人間は皆助けあわないとねぇ〜と青年は続ける。
少し変わっているけどいい人のようだ。
「自己紹介が遅れたね。僕はサクラ。男なのにサクラっていうのもアレだけど。
サクラ・セオドリオール。君は?」
「リョウ・コルトットです。」
慌ててリョウは口元を拭いて言った。
食べることに夢中で自分の名前を名乗ることを忘れていた。
思わず恥ずかしさに顔が赤くなる。
「リョウ君かぁ・・。年いくつ?」
「18です。」
「へぇ!若いねぇ〜。僕は23。」
そう言ってサクラはお茶をすすった。
サクラさんも十分若いと思う。
外見は20歳でも大丈夫だと思ったりするのだが。
「んで? 君は首都に何しに来たの?最近、来たよね?ここに。」
!!
どうして知っている!?僕は何も言ってないのに・・・。
リョウは驚いて警戒心を強める。
先日のZEROの手下との戦闘が頭をよぎった。
「そんな驚かなくてもさぁ。分かるよ? なんとなく、新参者は。
ほら空気が違うっていうか、見るもの見るもの珍しそうっていうか〜。」
よかった・・・ZEROの手下ではないようだ。
リョウはほっと息をつく。
「・・・まぁ、いろいろあって。」
視線を泳がせて言葉を濁す。
「ふ〜ん・・。」
訝しげにそう言ってサクラはサンドウィッチに手を伸ばす。
「何かありそうな顔してたから。探し人とか? 何かお探しかな?」
「・・・・」
鋭い・・・。
「やだなぁ、そんな警戒しなくてもさ。 別に何か探ろうとしてるわけじゃぁないし。
ただ、純粋に気になっただけ。僕はさ、ここに住んで長いから。人間観察が趣味っていうか〜。」
人の行動ってずっと見てると面白いし〜とサクラは続けた。
「僕の住んでる所はけっこう田舎でしたし。人が沢山で珍しくて・・。
それで、キョロキョロしてただけですよ。」
「そっか〜。いいよね、田舎! 空気おいしくてさぁ。僕好きだよ、田舎。」
そう言われてリョウは少し緊張が解けた。
懐かしい、村での生活がフラッシュバックされる。
村長さんにノア、学校の友達・・・みんな元気だろうか。
ふと、笑顔になってスープを口に運ぶ。
「んでさぁ、3日前に中央街の外れで騒ぎがあったの・・知ってる?公園でなんだけどさ。」
ブッッッッ!!!!!
リョウはすすっていたスープを思いっきり噴き出す。
そ、それはすなわち・・・リョウとレオナがZEROの手下と戦った・・・あの・・。
サクラはリョウの様子を見てキョトンとしながらも笑いながら机を拭いた。
「なんだい? そんなにびっくりしなくてもさぁ・・。
なんか戦闘があったとかないとか。まぁ、位置は少し遠かったみたいだから、あくまで噂で・・・。
まぁ、見た人がいないっていうのも変な話だけど?
だって首都だよ?いくら離れてても・・・」
そこで、言葉を切ってサクラはリョウを見た。
眼鏡のレンズが黄色なので瞳の色まではよく分からない・・。
でも何だか吸い込まれそうな力が、この青年にはあった。
「でも、能力の波動を感じたよ? 強い波をね。・・・・君は、知ってる?」
最後の言葉に何か力を感じた。
これは・・・聞いているんじゃない。確認だ。
この人は・・・知ってる。
僕があの場所、レオナが戦った場所にいたって知ってる。
知ってて聞いてるんだ・・・・。
どうしよう・・・。
この人はレオナの力について何か知ってる。
どうしてだかは分からないけど・・。
実際、リョウはレオナの能力が何なのか知りたかった。
でも、会ったばかりの人にそんなことを聞いても怪しまれはしないだろうか・・?
リョウは一瞬そう思ったが、性分だろうか。
好奇心が勝っていた。
それに、きっとこの人は僕が聞いてくるのを待っている・・。
「サクラさんは・・・あの能力について知ってるんですか?」
「ん?」
「見たんでしょ? 3日前の、あの戦闘を・・・。」
「さぁ? 何のことかなぁ? でも、能力のことなら知ってるよ。いろいろ調べたからね。」
サクラはリョウに微笑みかけて、そして話し始めた・・・。
「この星に能力をもつ者は決して少なくはないよ。
割合的に言うと2対8って位かな?あ、もちろん能力を持つものが2ね。
能力者にはいろんな種類がいて、自然の力を操ったり空を飛んだり動物と話したり・・・他にも沢山。
なんで能力者が現れたのかは知っているかな?」
ここでサクラは話を切って、リョウに問いかける。
「えっと・・・確か600年前にどうとか・・・。」
確か、老婆がそんな事を言っていた。
あんまり自分が関わりがあると知られたくないのでリョウはわざと言葉を濁す。
「そ。 600年前に自然と心を通わせる事に成功した人間がいたんだよねぇ。
何でそんな事をしたのかは僕は知らないよ。興味もないしね。
ただ、自然と心を通わせる事の出来た人間には不思議な力が宿るようになったんだ。
自然からの恩恵みたいなもんだと思うよ。それが、今でいう能力者の始まり。
でも、この能力は親から受け継いだりすることが出来るんだって〜。
もちろん全部の子供に受け継がれる訳じゃないみたいだけど。
確か・・・・受け継がれる確率は・・30%位かな。
600年前からだから今の時代まで受け継がれている家系は凄いよね〜。
ま、それだけ能力の高い家系だってことなんだろうけどさぁ。」
弱い力がちまちま受け継がれてる家系もまぁ、あるみたいだけど〜、と言ってサクラは笑った。
つまり・・・レオナの能力はそういう事か・・とリョウはやっと謎が解けた。
やっぱり超能力者・・。
老婆の言っていた通りだ。
恩恵としての能力・・・。
彼女は風を操っていたから風に関する能力なのかもしれない・・・。
「君は能力・・・あるの?」
不意にサクラは尋ねる。
「え!? いや・・僕にはそんな能力なくて・・。」
そう言ってリョウは頭を掻く。
あったら便利そうなのだが・・。
あいにく一般ピープルだ。
それを聞くとサクラはふっと笑顔になった。
人懐っこそうな笑顔。
「そっか〜。 僕たち仲良くなれそうだねぇ。」
「???」
リョウはサクラの言葉の意味が分からなくてただ首をかしげただけだった。
窓から風が入ってくる。からっとした爽やかな風だ。
その風がサクラの短い銀色の髪を軽く揺らした。
「ねぇ、リョウ君。」
「え?」
突然問われて、リョウは驚く。
「あの女の子・・・彼女?」
「あの女の子・・・レオナの事ですか? 違いますよっ!!!」
やっぱりあの戦闘を見ていたんじゃないかと心の中で思う。
話が続かないので口には出さなかったが。
「そっか〜・・・・。違うんだ。可愛い子だよね。」
そう言ってサクラはへへへ〜と笑った。
その笑いの心理は分からない。
しかし、害のあるものではなさそうだ。
トイレに行ってきますとリョウは席を立ち、サクラは一人外を見ていた。
口元には相変わらず笑みがある。
あの戦闘の時見た、栗色の髪の少女・・・。風の力を持つ少女・・・。
能力者・・。
「レオナ・・・か。 ふぅん・・・。」
笑みが一層強くなる。
リョウは、このときのサクラの表情を知らない。
眼鏡の奥にある鋭い瞳・・・それは明らかに殺気だった。
第九章 〜サクラ舞うとき〜 前編 Fin